岸本葉子『家にいるのが何より好き』(文春文庫 2002年)

 かく言う私も十代、二十代の頃は、あるがままということを、あまりだいじにしていなかった。はっきりとは思い描けないが、少なくとも今の自分とは違う「あるべき自分」のようなものが、常に気になり、焦っていた。(P.254)

「あるべき自分」に気をとられるあまり、なんてことのない日常を、仮の日々のように考えて、おろそかにしたりしてはいけないと。(P.254)

 移動中に読むために買った軽いエッセーなのだが、このくだりを読んでぎくりとした。まさしく、今ここにある自分以外に本当の自分なんていない。
 「あるべき自分」、理想の自分を追い求めて無駄に焦るよりも、いかに自分自身でいられるか、そのための努力をしようと最近思い始めていたので、心に沁みる文章であった。一日一日を大事に生きなくては。